今週の風の詩
第3907号 思い出の男の子(2023.12.31)
思い出の男の子
林千織
大学生の冬休み、ちょうど年賀状の配達が終わる時期でしょうか。私はぼんやりした体を起こすために、近所の公園まで走ってみることにしました。ぽかぽかと良いお天気で、のんびりと猫が日向ぼっこをしている横を走って公園に到着しました。
しめた!運よくブランコが空いています。ブランコで揺れる風は、寒さで痛くなった私の耳を一層ピリピリさせました。隣の小さな女の子と一緒にブランコをこいでいると、女の子より少し大きな男の子が走って来て、ペコリと頭を下げました。
「こんにちわは。」
寒さと走ったせいで桃色になった頬が可愛い男の子でした。女の子はすぐに家に帰りましたが、お兄ちゃんの方はしばらく私と遊びました。男の子は木の枝で地面に自分の名前を書きました。
「ぼく、サッカー選手と同じ名前なんだ。」
私も自分の名前を書きました。
「読める?ちおり、って言うの。」
当時、私は頭に靄がかかったようでした。でも、この男の子は違いました。体に光をいっぱいに取り込んで、のびのびと生きていました。
男の子はたいへん木登りが上手いのでした。するすると木に登って、少し日の暮れた空を気持ちよさそうに眺めて言いました。
「S字坂が見えるよ。お姉さんのお家はあの辺かな?」
そしてこんなことを私に聞きました。
「ねぇ、神様って、わからないことがあると思う?」
今の私だったら、きっと全然違うことを言ったに違いありません。でも、その時の私はいいかげんに答えました。
「色々わからないこともあるんじゃない?」
男の子は静かに否定しました。
「そんなことないよ。きっと、2,3個くらいだよ。」
男の子とは、その後何度か公園で会って遊びました。でも、私が引っ越すことになって、それからはすっかり会えなくなってしまいました。
一体、どんな大人になったのかしら。でも私は、こんな風に思っています。いつかまたどこかで、会えるんじゃないかなって。