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今週の風の詩

第3967号 懐かしさと春の香り(2025.2.23)

懐かしさと春の香り
KANA(ペンネーム)

マンションのエレベーターでのこと、先に乗り込んだ私は老女が乗り終えるまで開ボタンを押しながら待った。乗り終えた老女は「ありがとうございます。お待たせいたしました。」と上品な口調でおっしゃった。私は「いいえ、あの何階ですか?」と尋ねた。老女は階数ボタンを見ながら「あら、同じ。」と微笑んだ。その笑顔に私も思わず微笑みかえした。すると老女は、「あの、ここにお住まいの方ですよね。もしご迷惑でなかったらデコポンもらっていただけないかしら。主人の実家から2箱も送ってきて私達2人では食べきれないの。」と言った。私は突然のことで少し戸惑い、返す言葉に詰まって間が開いた。老女を見ると私の答えを待って微笑んでいる。その笑顔に「はい、大好きです。」と答えてしまった。その時エレベーターが停まったので、私は開ボタンを押して老女が降りるのを待った。「ありがとう。よかったわ、ちょっと待っててね。」と老女は家にデコポンを取りに行った。私は付いて行くのも失礼かなと思い、エレベーターの前で待った。

数分後、ドアの閉まる音がしてコンビニの袋を重そうに持った老女がこちらに歩いてきた。私は迎えに行く形で老女の元に行き、袋一杯のデコポンを受け取った。「はい、お裾分けね。」と、また優しい笑顔でおっしゃった。

「こんなにいっぱいありがとうございます。」私はお礼を言ってありがたく頂戴した。

『お裾分け』なんて久しぶりに聞いた。『つまらないものですが』と同じように少しへりくだった言葉。祖母が生前良く使っていたことを思いだした。私でさえ使わないから、若い人はもっと使わないだろう。でも私はこの様な日本人特有の奥ゆかしい言葉が好きだ。出来ればこういう言葉と奥ゆかしい気持ちはこれからも無くなって欲しくない。私も使わなくては・・・。

懐かしさと春の香り、そして老女の笑顔に私はすっかりほんわか気分に包まれた。

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