今週の風の詩
第3965号 チョコレートづくし(2025.2.9)
チョコレートづくし
吉村史年
念願のイースタンオリエンタルエクスプレスに乗ることができた。アジア版オリエント急行で。シンガポールとバンコクを二泊三日で結ぶ豪華寝台列車だ。ヨーロッパ調の内装の個室に行き届いたサービス、料金に含まれるフレンチやイタリアンの食事とアフタヌーンティー、これらが味わえるという期待感で胸が膨らんだ。
同行する母は、余程楽しみにしていたのか、この日のために英会話学校で特訓していた。元来努力家の母のことだったので、列車内の手続きや乗務員とのやり取りは任せようと思った。
列車に乗り込むと、二人用のコンパートメントに案内された。昼間はソファに座って景色を楽しみ、夜は二段ベッドをセッティングしてもらえる、木製とビロードの生地の内装に囲まれた空間は、シックで安らぎをおぼえるものだった。
二日目の午後、母はコンパートメントでゆったりと過ごし、私は展望車でワインを飲みながら、添乗員のピアノ演奏に耳を傾けた。ほろ酔いで個室に戻ると、アフタヌーンティーとしてトレーが置かれていた。見ると、トリュフ、プラリネ、チョコクッキー、ホットチョコレートにガトーショコラとチョコレートづくしだった。
チョコレートが大好きな私は舞い上がったが、ワインでお腹が緩くなった私は、コンパートメント内にあるトイレに駆け込んだ。その間に、乗務員が部屋に来て母に二言三言話しているのが壁ごしに聞こえた。まさかと思い、トイレから出ると、チョコレートのトレーは持ち去られていた。母に訊くと
「残ったものをお下げします」
というようなことを言っていたらしい。私は、なぜ止めてくれなかったのかと文句を言った。きっと母の英会話力なら伝えられたはずだった。
しかし、その時思い出したのだが、私も母も人見知りで、知らない人に何かを要求するのは苦手だったのだ。英会話の前に、二人とも初対面の人と気後れせずに話をする練習をすべきだったと、反省した次第である。
同行する母は、余程楽しみにしていたのか、この日のために英会話学校で特訓していた。元来努力家の母のことだったので、列車内の手続きや乗務員とのやり取りは任せようと思った。
列車に乗り込むと、二人用のコンパートメントに案内された。昼間はソファに座って景色を楽しみ、夜は二段ベッドをセッティングしてもらえる、木製とビロードの生地の内装に囲まれた空間は、シックで安らぎをおぼえるものだった。
二日目の午後、母はコンパートメントでゆったりと過ごし、私は展望車でワインを飲みながら、添乗員のピアノ演奏に耳を傾けた。ほろ酔いで個室に戻ると、アフタヌーンティーとしてトレーが置かれていた。見ると、トリュフ、プラリネ、チョコクッキー、ホットチョコレートにガトーショコラとチョコレートづくしだった。
チョコレートが大好きな私は舞い上がったが、ワインでお腹が緩くなった私は、コンパートメント内にあるトイレに駆け込んだ。その間に、乗務員が部屋に来て母に二言三言話しているのが壁ごしに聞こえた。まさかと思い、トイレから出ると、チョコレートのトレーは持ち去られていた。母に訊くと
「残ったものをお下げします」
というようなことを言っていたらしい。私は、なぜ止めてくれなかったのかと文句を言った。きっと母の英会話力なら伝えられたはずだった。
しかし、その時思い出したのだが、私も母も人見知りで、知らない人に何かを要求するのは苦手だったのだ。英会話の前に、二人とも初対面の人と気後れせずに話をする練習をすべきだったと、反省した次第である。