今週の風の詩
第3960号 初めての凧揚げ(2025.1.5)
初めての凧揚げ
深見裕子
寒くなると子供の頃、父と凧揚げをしたことを思い出す。和紙で出来たお決まりの凧ではなく"カイト"という名のビニールで出来たもの。新しいものが好きな父が、おもちゃ屋さんにて購入してきた。包み紙を開けると、そのカイトは鳥の形を模していた。右と左で紅白に色分けしてあり、コンドルの翼のように大きかった。子供心に(なんてカッコイイんだろう!)とワクワクした。
晴れた日の日曜日、父と車で土手へ向かった。車を降りると、身体がぶるっと震える寒さ。しかしなにより凧揚げ日和のいい風が吹いている。空を見上げると、まだ冬の様子をまとった小さな雲が所々にぽかりと浮かんでいた。
支度が出来「さあ飛ばすぞ!」と父が言うなり、カイトは風に乗り、フワッと空に上がっていった。父の手の中にあるタコ糸は、カイトが上昇するたび、するすると空へと登っていく。遠く遠くなっていくカイト。私はカッコよく飛んでいく様をポカーンと口を開けて見惚れていた。
すると父が突然「あああっ!!
」と声をあげた。なんとカイトを操る、タコ糸の最後が板に縛られていなかったのだ。しかしカイトにとってそんなことはお構いなし。自由の身になった今、遠くの空へと舞い上がってゆく。どんどんどんどん小さくなっていき、終いに何も見えなくなってしまった。父と顔を合わせると、なぜだかとても可笑くなり、ふたりでお腹が痛くなるほど笑った。
50年以上前の話だが、この時の気持ちは、今思い出しても胸がおどるのだ。