今週の風の詩
第3949号 秋麗の山手線で(2024.10.20)
秋麗の山手線で
笹尾 光子
秋晴れの午後、上野の美術館へ行ったときのこと。目黒駅からの山手線で、インドネシアの青年と隣り合わせた。目と口元がきれいで、笑顔が清々しい。群馬県在住で介護施設で働いている技能実習生だという。
「お仕事大変でしょう?」と話しかけると、
「大変だけれど、もう慣れました。日本で働けるだけで幸せです。日本は自由なので大好きです」と言う。ときどき技能実習生の厳しい実態を聞くので、「嫌なことがあっても日本を嫌いにならないでね」と言ったら、笑ってうなずいていた。
彼は三人連れで、他の二人はスカーフをかぶった女性と彼と同じ年頃の男性。恋人同士だという。
「僕も彼女が欲しいです。日本人の女性で結婚してくれる人が。日本人と結婚すれば日本国籍になれますから。結婚したらお母さんも日本に呼びたいです。お母さんも来たがっているんです」
と夢を一気に語った。名前と歳を訊かれたので、八十だというと、「僕のおばあさんは七十二だけどもう歩けません」とほめる。
話は尽きなかったが、電車が東京駅に着いて、そこで彼は降りていった。