第 3867号2023.03.25
「豊田駅南口ー定年に寄せてー」ベル(ペンネーム)
JR豊田駅で、待ち合わせをすることが多くなった ……というのは私がその近くに引っ越しをしたからなのだ ー最近のことである 同じ職場で働く先輩は この春に定年退職を迎える お互い近くに住むようになってからー車通勤の私は よく先輩と待ち合わせをし……帰りも一緒に帰ることが多くなった いよいよ退職の日この日も帰りは一緒だった JR豊田駅南口で車のドアを開ける先輩に向かって 私は「長い間お疲れ様でした」と声をかけたー先輩は少し寂しそうだった するとそれを悟られまいと……やけに声高に「どうもありがとう!!」と言った そして「さようなら」と……これは小さな声だった 私はその言葉を聞きながらー35年もの長い歳月を 今別れようとする先輩と同じ空気を共に吸っていたのにも関わらず 何をー何のためにどうして触れ合っていたのかを自問自答しながら…… 先輩の後ろ姿を眺めていた そして私はそのまま車を走らせながらふとバックミラーを見たのだった そこにはいつまでも手を振る先輩の姿があった 強がりと片意地を張りながら一緒に仕事をしてきた 「幸せな35年だった!!」という先輩のその思いは 何処かにー何かを置き忘れてしまったかのような……バイバイの手の振り方だった 信号を左に曲がらなければならない私はバックミラーに写る先輩のその姿を見ながら ……ハザードランプの点滅で答えるしかなった 別れとはーそうしたものなのかもしれない……