第 3863号2023.02.26
「母の思い出の味は「エビクリームコロッケ」」
内田 恵美子
もうすぐ母の命日が来る。亡くなって丁度50年。前の日まで元気 だったのに、朝意識がなく搬送先の病院で夜亡くなった。脳出血。 まだ50代だった。 母は料理上手だったが、中でもエビクリームコロッケが絶品だった。 私にとって一番の思い出の味である。店にはジャガイモのコロッケ しかなかった60年以上前から、我家のコロッケはクリームコロッケ だった。バター、牛乳、小麦粉でソースを作り、炒めた具材と合わ せ、冷蔵庫で冷やし固めてから、コロッケに成形する。とても時間 と手間がかかるのだが、母はあえて特別の日に作るのではなく、 当時毎日数本とっていたビン入り牛乳が、飲み切れずに余ると「さあ 牛乳が沢山あるから、コロッケを作りましょう」と、いとも気軽に 作ってくれた。からりと揚げた熱々のコロッケの、エビやシイタケの 入ったクリームソースがなんとも美味しい。クリームの硬さも丁度 いいのだ。翌日のお弁当にも入って、冷めてもおいしかった。 当時レストランでも食べたことがなく、我家の自慢の一品で、大好き だった。母が亡くなってから、私は特別のお客様の時作ってみるが、 どうも中のソースが柔らか過ぎたり、揚げている間にパンクしたりで、 母のようにはいかない。母が生きていた時は、母「作る人」、私「食 べる人」で、台所で作るところを見ていなかった。まさかそんなに 早く亡くなるとは思っていなかったので、後悔しきりである。 当時の家は古く、台所は今のように機能的ではなかった。そこで、 母は手間暇かける料理をよく作っていたと感心するし、まだ世の中に クリームコロッケを見かけない60年以上前に、母はどこで作り方を 知ったのだろう。聞いてみたかった。 今年の命日には、久しぶりに頑張って作ってみようと思う。