第 3853号2022.12.18
「想い」
くまちゃん(ペンネーム)
私の住む街は冬になると山から吹き下ろす冷たい風とともに雪が舞い 降りたり氷柱ができる。 氷柱は大きさや形が様々で 見ていると 澄んだ色の美しさに魅了され てしまう。 小学校一年生の冬のある日友達と一緒の下校途中に 自宅の近所の長屋 の屋根から下がっている 大きな氷柱が目に止まった。 あれ、欲しいなあ。 剣のようにして遊んだら楽しいだろうなあ。 でも 高い位置にあって 手が届かないよね。 あきらめようかー。 そんなことを友達と話していた。 と、そこに見知らぬ若い男性が通りかかった。 その人は一瞬歩みを止めるなやいなや 進路方向を替えて 氷柱に歩み 寄った。 バキバキッという音が街に響いた。 その人は 大きな氷柱を一本づつ手折って 私達に渡してくれたのだ。 お礼を言うと 無言の笑顔で立ち去っていった。 あれから 50年位経つけれど 毎年冬になると、この出来事を思い出す。 今ごろ あの人は元気にしてるかな。 どこかで またばったり出会えないかな。 あの人が私達のことを覚えていてくれていないとしても そんな想いが 頭をよぎる。 そしてまたいつものように この街の雪や氷柱は少しずつ溶けて やがて 大地の栄養へと変わる。 人の想いも一緒で それぞれの心に宿る諸々も やがて溶けていき 最後は 心の栄養へと行き着くのだろうと思う。 今年の春はどんな春になることだろう。