第 3846号2022.10.30
「カリスマの所以」
ニャンコ(ペンネーム)
「私よりこの会社を大事に思う人がいるなら、いつでも社長の座を譲って やるわよ!でもいないでしょ?だから私がやるの。」 友人は酔うと、不適な笑みを浮かべながら必ずこう言い放った。彼女はワン マン社長で、何も怖いものがない。社員にとっては恐ろしい社長に違いない が、彼女はいつでも結果を残していたから、誰も文句は言えないようだった。 「●●界のカリスマ」彼女はいつしかこんな風に呼ばれるようになった。 こんな彼女だが、時には酔って泣くこともある。本人談によると、夜中に たったひとり(1匹?)の家族である犬を抱きしめながらクダをまいたりも するらしい。きっと犬も迷惑だろうなぁ、と思うけれど。 そんな彼女が還暦を目の前にして社長の座を譲り、遠い南の島に行くことに なった。あまりにも急でびっくりしたけれど、笑いながら私に旅立ちを告げ た彼女の顔はとても清々しかったから、きっと彼女よりこの会社を大事に 思ってくれる人を見つけたんだな、私は思った。 あれから半年。新社長はカリスマではない。ワンマンでもない。ただ ニコニコ笑っているだけ。いい人だけれど、どうして彼女は彼を後任に選 んだのだろう。ずっと不思議に思っていたある日、この会社の前を通ると、 なんと社長自ら玄関先の掃除をしていた。楽しそうにクリーナーを持ち 隅々を綺麗にしている彼を見てやっとわかったのだ。彼女が彼を選んだ 理由。今までは彼女の輝きばかりが目立って、彼のよさに気付かずにいた のだ。太陽が輝いている間、月が見えないように。 夜、満月を見ながら遠い南の島にいる彼女に向かって話しかけてみた。 「いい人をみつけたね。さすがカリスマ!」