第 3843号2022.10.09
「公園の朝」
金木犀(ペンネーム)
近所の小さな公園。秋晴れの朝に、軽くジョギングしながら行くの が楽しい。公園の一角には各種の薔薇が植えてあり、満開の美しい 薔薇の前を歩くと、どのバラなのか、時折かぐわしい芳香が鼻孔を くすぐる。 ベンチに座って見回すと、穏やかな表情の老夫婦がゆったり歩む。 1つ1つ、薔薇の名前を確認し、花について語り合う。お互い時々 手を引いて、まるでエスコートするように歩きながら、よく咲いて いる花の前にお互いを立たせて写真も撮っている。素敵なカップル だなあ。心でつぶやく。あんなふうに年を重ねたいものだと思う 一方で、自分の家族への普段の態度が脳裏をよぎる。…うーむ。自分 は一人でセカセカし、早くしろと家族にイライラモードのことが多い のだ。あんな老夫婦になりたければ、まずは自分の態度を変えろとい うことか。こりゃまいったな。 ふと甲高い声に目を向けると、まだよちよち歩きの子供と若いお父 さんお母さんが歩いている。子供は鳩を追いかけ、興奮して声を上げ る。お父さんは子供と一緒に走っている。育児疲れがうかがえるお母 さんも、笑顔でその様子を眺めている。お母ちゃん頑張れよ。毎日 疲れるよね。お父ちゃんが在宅勤務してるのかな。家族のこんな時間が 平日から持てるようになってよかったね。 都会の小さな公園の朝の時間。コロナ禍の在宅勤務がはじまるまでは、 ただただ慌ただしい朝だった。そう思うと、こんな朝を与えてくれた 状況にもある種の感謝も湧いてくる。 さて、今日は家族に穏やかに接してみるか。木漏れ日の奥の太陽が 微笑んでいるようだ。思い切り伸びをしながら立ち上がった。