第 3841号2022.09.25
「柿の木と寿命を競う」
仲途 帆波(ペンネーム)
この町に移り住んで、あっという間に45年が過ぎた。 それにしても今年ほどの酷暑は、記憶にない。 うんざりの毎日だが、庭の柿の木に目をやると元気が沸いてくる。 青々と葉が生い茂り、5センチ大に成長した実が数えると30個以上ある。 実は3年前に枝が隣家の敷地に入りこんだり、道路にもはみ出したので友人に 頼んで剪定してもらったのだが、これが大胆過ぎたらしい。 その翌年は実は2個しか成らず、柿の寿命が尽きたかと覚悟した。 昨年は遂に僅か1個となり、傘寿を迎えた私と寿命を競うかたちになった。 種類は次郎柿で亡父が庭の片隅に植えたもの、苗木が良かったのか日当たりが 適度だったのか、完熟するまで取らずにとっておくと絶妙な甘味となった。 最盛期には千個以上成って、多くの友人たちや近くの消防署にも配った。 ところが今年俄然元気を恢復したような柿の木、ついつい歳のせいにしてしま う私も、柿から生気を頂いたからにはハッスルせざる得ない。 柿のそばを通る度に、私は語りかける。 「次郎くん俺たちは、幼友だちみたいなもんだよ。お互いに頑張ろうな」 しかし実が全然成らなくなっても、すぐに伐り倒すつもりはない。 訪ねてきた友人たちと緑陰の下で、語らいの場が持てるのだから…。