第 3838号2022.09.04
「父の時計」
みーこ物語(ペンネーム)
父の時計を売った。愛用の時計。 寝る時も、肌身離さずつけていた。 朝起きると、ネジを巻いて、テレビの時間と合わせるのが日課だった。「この 重さが落ち着くんだ」と、相棒のようだった。 私の受験や資格試験のときには、いつも父に時計を借りた。 ぎゅっと時計を握りしめると、心が落ち着いて、勇気がみなぎった。 「大丈夫!」 時計をとおして、父が私を力強く見守ってくれているんだと思った。 形見だった。 だから母に「時計を売って、生活の足しにしたい」と言われたとき「手放した くない!」と強く思った。 けど売った。母の「パパは絶対に喜んでくれてる」この言葉にスッと納得した からだ。 父はいつでも、母と私の幸せを一番に考える人だった。 時計という形あるものは、私の前からなくなったけれど、父が私に注いでくれ た愛情は、いつでもどんなときも感じることができる。 それだけで、生きる勇気がみなぎる。