第 3836号2022.08.21
「食べものの記憶」
風景(ペンネーム)
駅から歩いて10分位の住宅街にある北欧好きのかき氷やさんで、コーヒーミ ルクを食べた。頭がキンキンしない食べ易さに、何年か前に食べた銀座のか き氷やさんを思い出した。そこのメロン氷は、口に入れた瞬間に幼い頃、夏 休みに遊びに行った山形の味、そのもので感動した憶えがある。 両親の田舎の山形県鶴岡市には、中学に上がる迄はほぼ毎年夏休みを過ごし た。従兄弟が11人いて、年の頃は下から二番目だったので、お祭りの夜店で おこづかいで好きなものを買ったり、最上川の川辺でお弁当を広げたり、大 部屋で並んで蚊帳を張って蚊取り線香も焚いて、海や山やお墓参りと、お兄 さんお姉さんに付いて、勉強したり遊んだり楽しかった記憶が蘇る。親戚が 畑をもっていたので、風呂桶に水を張り、収穫したトマトやキュウリ、スイ カ、ナスを冷やしておいた。そのトマトをかじりつくと、酸っぱ味が暑さを 和らげてくれる。親戚のおばさんは、料理が上手で大人数の来客にも慣れて いて、作りおきを色々としていた。その中に、畑の庄内砂丘メロンをシャー ベットにしたものと、すももを煮込んで薄めてジュースで飲むものは、 私の大好物だった。夕食時は、テーブルを囲んで大人子供がギュウギュウに 座り、おしゃべりで賑やかに。食材も豊富で、だだちゃ豆や口細カレイ、 牛肉の粒マスタード炒めと、普段家の食卓では上がらないバラエティに飛ん でいた。 中学生位になると、田舎のおばあちゃんも引っ越してしまい、帰省する 機会は減ってしまった。今思うと、小さい頃の舌の記憶は、匂いもだが当時 の情景が一気に思い浮かび、褪せる事なく大切な時間だったのだなあと、年 を取ると切に感じるようになった。あのキンキンしないかき氷から、思いを 馳せたとは。