第 3827号2022.06.19
「父の日の宅急便」
渡会 雅(ペンネーム)
息子からクール宅急便が届いた。 発砲スチロールの箱の蓋を開けてみると、『お父さん、いつもありがとう』 と小奇麗にデザインされた冊子の下に鰆の粕漬が六枚入っていた。 即座に整形外科に出かけた妻に「アイツから父の日の贈り物だよ」と電話を 掛けると、思いがけない返事だった。 「ありえない。それって、送りつけ詐欺じゃないの?」 昨年、妻は危うくオレオレに引っかかりかけた。 「職場でたくさん蟹をもらったから半分送る」と電話があって、手の込んだ罠 を見破れずにお金をむしりとられる寸前までいった。以来宅急便とか息子を名 乗る電話には神経質になっているのだ。 「バカなこと言ってんじゃない。アイツが聞いたら怒るぜ。ちゃんと依頼主の 住所も名前もアイツになっておる。まったくー」 「だって、今まであなたにそんなもの来たことないでしょ。母の日は毎年届く けどサ」 その夜、「お前が今度来た日に一緒に食べることにしたよってメール送った ら、顔文字でオッケーの返事が来たわよ」と妻。 「貸してみろ」と妻のスマホを開くと、息子宛のメールにこうあった。 『ありがとう。父さん、目を潤ませていたよ』