第 3825号2022.06.05
「金魚」
一休さん(ペンネーム)
何時の頃からか庭の池で金魚を飼っている。色々の模様の金魚が7、 8匹元気よく泳ぎまわり、近づくと餌を求めて寄ってくる。池の端を通 る度に池の中を覗くのが楽しみとなった。 結構長いこと飼い続け、時折補充しているが金魚は一向に増えな い。餌のやり忘れや、水の管理を怠ったりして死なせたことも有る が、鳥か何者かに食べられてしまうのが多い。最近、この辺りに出始 めたアライグマも怪しい。アライグマの名は、池に手を入れ魚などを 捕る姿が手を洗っているように見えることからついたという。近頃は 池にネットを張り、こうした被害を防いでいる。 つい1週間ほど前に、かなり長いこと定着して見事に成長した金魚8 匹の内5匹が被害に遭った。うち2匹は浮いていたが、3匹は見当たら ない。またやられたのかとがっかりした。いつも寄り添って泳いでい た金魚たちも、今は底の方に潜りひっそりしている。そういえば先 日、大きな鷲が池の端でジーっと中を覗いていたことを思いだした。 先日、新しい金魚を買いに街の金魚屋へ行った。金魚屋はこの街の 繁華街から少し外れたキネマ通りという通りにある。昔は賑やかな通 りだったそうだが、今ではすっかりさびれている。金魚屋はいつ行っ てもひっそりしている。私の姿を見た老店主はびっくりしたように顔 を出した。事情を話すと、店主はこんな話をしてくれた。 最近、多摩川に河口から沢山の川鵜が移動してきて、小魚を食い荒 らしている。お陰で以前からこの辺りに住みついていた鷲は餌が獲れ なくなり、街中にまで餌を探しに来る。金魚屋の店先にも来て、商品 の金魚を狙っていると言う。店主が追い払うと、なんと店先の電線に 止まり3時間もじっと店先を覗いていたそうだ。雛がかえったばかり の今頃は特に大変らしい。 憎い鷲ではあるが、鷲には鷲なりの事情があることがわかった。動 物達の世界もきびしいのだろう。一概に鷲を憎むことはできなくなっ た。