第 3824号2022.05.29
「ナスの花」
ミント(ペンネーム)
ホームセンターにペット用品を買いに行くと、園芸用の土が沢山売られ ていた。土さえあれば、ベランダでも野菜が作れると友人が言っていた のを思い出す。その隣でベランダ菜園用の苗も売っていた。ナス、 トマト、ジャガイモ…、えっ、ナス?トマト?ジャガイモも? 面白半分にナスとトマトの苗と土を購入し、早速植えてみた。最近は、 土の入っている袋のまま栽培する事もできるそうだ。なんと便利な時代… なのか、手狭な日本特有なのか。 昔の学習雑誌の付録で実験をしているような気分になりながら、毎日 眺めていた。本当に育つかしらと思いながら。 天候が良かったのが幸いし、グングン大きくなり花が咲くまであっと いう間だった。特にナスの元気の良さと言ったら!ベランダという ことで遠慮はしないよと言っているようだった。バサバサ茂った葉は、 子供なら傘のように利用出来るのではないかというサイズになり、 薄紫の蕾はあちこちに現れた。順調にいけば30、いや50個くらいは 自家製ナスを収穫出来るだろう。今年はナスには困らないな。 友人達に配ろうかと夢を膨らませた。 しかしある日、ベランダを見ると、花がぽろりと落ちていた。可憐で 美しい花が落ちている様は思いがけずショックだったというのに、 最初1、2個だったのが、5個、6個と落ち始めた。、 肥料をやり過ぎたのか、葉を剪定し過ぎたか、水が足りないのかと、 多少やりすぎかと思われるほどのお世話をしてみたりしたが、 毎日花は落ちてしまう。結局、実をつけたのは4つのみだった。 それでも大成功なのかもしれない。しかし、あの満開の花達は 何だったのかという気持ちと、花がポロポロと落ちてゆく時の切なさが まさってしまっていた。そんなの、園芸の本にも載っていなかったし、 育ててみるまで知らなかった。考えてみれば、ベランダ菜園の限られた スペースでわんさか実を付けられるはずも無く、それは当たり前な事 かもしれないのだが。人はこんな風に家庭菜園に心奪われるのかなと、 ぼんやり考えながら、実をつけたナスを眺める。 もうすっかり夢中である。 次は何を育てようか。