第 3805 号2022.01.16
「冬の夜空の贈り物」
イグアス(ペンネーム)
日中の空に浮ぶ淡い月を見つけた時、私は宇宙の存在を身近に感じる。今、私を 虜にするもの、それは宇宙だ。 数年前50代に突入した頃の私は当時、自分の人生に目標を見出せず、夢に向か って生きていた日々は遠い過去の記憶となり、焦燥感と無気力の狭間で踠いてい た。そんな冬のある日、駅から家路に着く途中ふと空を見上げると、東京の明る い夜空に鼓の形をしたオリオン座が美しく輝いていた。煌めく星々をじっと眺め ていたら、私は宇宙に守られているような不思議な感覚に包まれた。 翌年1月しぶんぎ座流星群が地球へやってきた。深夜、静寂と凍てつくような寒 さの中、私は自宅マンションのベランダで独り白い息を吐きながら、流星が一筋 の閃光となって濃藍の夜空をいくつも駆け抜けていくのを観た。一瞬の輝きに散 る流星の儚さと美しさに溜息が漏れた。天空劇場のショーのようだった。 その年の夏、火星が地球に大接近することを知り、私は念願の天体望遠鏡を手に 入れた。初観測でレンズが捉えた火星、木星の縞模様、土星の輪、月のクレータ ーの幻想的な姿に胸が熱くなった。宇宙は完璧に私を虜にしたのだ。 138億歳の宇宙は想像を遥かに超えるほど果てしなく大きい。私達の太陽でさ え宇宙では有触れた恒星の一つにすぎないのだ。銀河、暗黒物質、超弦理論、ブ ラックホール、素粒子など宇宙は神秘のベールに包まれている。その謎に近づき たく、プラネタリウムや図書館やテレビの科学番組が私の学校となった。天文や 科学に興味のなかったアラフィフ女の私が突然宇宙に魅せられてしまったのだか ら人生は何歳になっても未知数だと思う。あの冬の日、夜空に瞬くオリオン座の 星たちが暗闇にいた私を宇宙へ誘ったのだ。 いつか南米チリのアタカマ砂漠へ夫と二人、旅をしたい。満天の星に抱かれ、 深遠なる宇宙に思いを馳せるのだ。そして遠い未来に願いが叶うなら、瑠璃色に 輝く美しい地球を宇宙から眺めてみたい。