第 3802 号2021.12.26
「かぞえてみよう」
朝光洋理
5歳の長男が突然「ぼく、すうじのべんきょうするんだ」とやる気になって、< かず>と表紙に書かれた簡単なドリルを持ってきた。長男が適当に冊子を開いた ページでは、11という数を示すために、数字と<いくつあるか かぞえてみよう >の文字の下、11台の車の絵が描かれている。「これは11だね」と長男が数字を 読んで言った。「正解!じゃあ、この車も数えてみよう。11台かな?」という私 の誘いにのり、彼は意気揚々と指をさして数えだした。 「...8、9、10!...あれ?」なんでかな、と首をかしげる彼に、理由を知ってい る私はもういっかい数えてみてと促す。「…8、9、10!...やっぱり10しかない」。 車の台数は、数えるたび10になったり11になったりして安定しない。きちんと 指さし確認しているだけに、納得できない長男はくじけそうになっている。 「ねえ君、ここまではいつでもばっちり6だったよ」と私はページの半分を示 した。「その後の数から変わってるみたいだね。なんでこんな事件が起きるのか、 探偵してみようよ」長男は眉間にしわを寄せながら、もう一度ゆっくりと、7か ら数える。「7、7、8」そこでハッと気づいたように、もう一度数え直した。 「なな、しち、はち……11!ぼく、わかった!」と満面の笑みを見せてくれた。 タネは簡単、日本語の妙が落とし穴で「なな」と「しち」で、二重に数えてしま っていたのだった。まるで落語の「時そば」のようだ。 正確に数えられるのがよほど嬉しいようで、何度も数え「11!」と言ったあと、 こちらを向いて輝くような表情を見せる。ものごとが解るとか、自分でできたと いう喜びのまぶしさに、私までもうれしい気持ちになった。