第 3796 号2021.11.14
「真夜中のおやつ」
山本 流石(ペンネーム)
持ち帰った仕事が終わらない。 日曜で時計は23時を過ぎていた。 若い頃は寝ないでやれば何とかなるさと思えたけれど、この歳になると意志と関係 なく寝てしまう。栄養ドリンクも飲みすぎると心臓が苦しくなる。もう既に、その 日の許容量は超えていた。さて、どうする。 少し寝ようか…寝てしまったら起きられない。とにかく続けるか…続けたとしても ミスを連発するだろう。考えながら、机の上のクッキーが目に入った。 その時、声が聞こえた気がした。 「まあ、お茶でも飲みましょうよ。」 聞き慣れた声ではあるけれど、もう何十年も聞いていない声。それは祖母の声だっ た。 浮かんだとおり、お茶を淹れることにした。 「まあ、お茶でも飲みましょうよ。」 祖母は私がどんな問題を抱えてきても、まずそう言った。あの頃は祖母の呑気さに 辟易したものだけれど、さすがに子供は甘い誘惑に弱かった。暖かいお茶が出て、 必ずお菓子も付いてくる。そうして言われるがままお茶を飲みお菓子を食べている と、話題は自然と味の品評会となった。「それで、どうしたの。」と聞かれる頃 には、どんな問題も何とかなりそうな気になるのが不思議だった。 真夜中に私はそんなことを思い出していた。 そういえば、こんなに焦ることもなかったね…とは、祖母に言ったのか、独り言だ ったのか。子供でなくなっても、まずはお茶を飲めば何とかなるのか…と、私は思 わず笑ってしまった。