第 3787 号2021.9.12
「次男のお弁当箱」
中川 眞子
最近、期間限定で主人のお弁当作りを始めた。結婚してから、初めての主人へ のお弁当作り。主人は一昨年の入院・手術を経て、職場復帰も果たし、定年まで あと数年となった。 いろいろな感謝の気持ちを込めて、作らせてもらっている。 そこで活躍しているのが、次男が高校生のときに使っていたお弁当箱。お弁当箱 もまた出番が来るとは思っていなかっただろう。 ただ、今回のお弁当作りは今までとは少し違った感じがする。主人のために作っ ていながら、なぜか次男のことも思いながら作っているような気もする。 次男は大学院進学のため、一昨年より福岡で一人暮らしを始めた。 1年目はとても充実した日々を過ごしていた。自身の研究のために、韓国に度々 出向いたり、日本国内の学会に参加したりして、志を同じくするたくさんの人と つながることができ、うれしそうだった。 しかし、2年目の昨年はコロナ禍のため、それまでやれていたことが全くと言っ ていいほどできなくなってしまった。心はすっかり折れてしまい、何も手につか なくなってしまったようだ。 「武士は食わねど高楊枝」を絵に描いたような次男は、とことん辛くなって、 日々の生活もままならない状態になるまで、家族に連絡をよこさなかった。 今はとりあえず、主人や私とは電話を、長男とはリモート飲み会をしながら、何 とかこのコロナ禍をやり過ごそうとしているのだと思う。そう思うようにしてい る。 そんなこともあり、次男に食べてもらうことはできないが、時々、できあがっ たお弁当の写真をLINEで送ってみる。 「おいしそう、食べたいな」とか「卵焼き、懐かしいな」といった、短い返事が 返ってくる。 まだ気持ちが辛いままなのか、少しは元気になっているのか、正直なところ、こ の返事だけではよくわからない。 それでも主人にも次男にも、心も体も元気でいてほしい・・・それだけを願いな がら、今日もお弁当を作る私がいる。