第 3780 号2021.7.25
「物言わぬカホン」
宮嵜瑛太
ドンドン、カッ、カッ。ドンカッ、ドンカッ。 うん、たしかこんなような音だったはず。そんな風に思いながら、部屋のイン テリアとなった打楽器、カホンを見つめた。高校生になった時、何故か楽器を始 める友人がぞろぞろと現れた。当然のように感化された私はなにか個性的な楽器 を始めたいと考え、このカホンを購入することにしたのだ。それがもう六年も前 のことになる。大学生になった私は、引っ越しの際に実家からカホンを持ち出し た。しかしこの楽器、結構大きな音が出る。壁の薄いアパートで演奏するのは難 しかった。 そんなわけで、今では我が家のインテリアだ。木製のカホンはイン テリアとしても十分な魅力がある。本来は人が座って叩くため、上に物を置いて もへっちゃらだ。しかし、しかしだ。たまには思いっきり、ドコドコとこいつを 叩き演奏したいという衝動にも駆られる。そもそも、実家でもちゃんと演奏をし たことは無かった。私のカホンはこのまま、インテリアとして一生を終えてしま うのだろうか。なんだかそれは申し訳ない気がする。私はカホンの中心を小突い てみた。 『ドンッ!』 「おおっ……」 なかなかの重低音が室内に響く。やはりアパートでは演奏できそうにない。調 べてみると、教室を開いてくれている場所もあるようだ。しかし欲を言えば、趣 味程度で伸び伸びと、叩きたい時に叩きたい。 『カッ、カッ』 今度はカホンの上の方を叩いた。カッと高い音が鳴る。 うん、良い音だ。演奏できなくたって、愛着はあるのだ。いつかこいつを、満 足がいくまで演奏してやりたい。ただのインテリアで終わらせる気はないよ。そ う思い、私はカホンから離れた。 大きな音を出せる丈夫な家に住もう、カホンを学ぶ時間の余裕を作ろう、一緒 に演奏する仲間を見つけよう。いつになるかはわからないけど、目標の一つだ。 今は物言わぬインテリアだけど、いつかキミを楽器にしてみせる。