第 3773 号2021.6.6
「遠い昔のちっちゃな恋の物語」
東海林 恵子
「この夜景を智美ちゃんにプレゼントするよ」 智美と前を歩く先輩の声が、ひと際大きく聞こえた。後輩の関君と二人の後 をついて行く。先輩が振り返り、付け足した。 「女子って、必ず自分より可愛くない娘を誘うけど、お前は偉い!」 でしょ? 私の親友は、飛び切りの美女だと言ったじゃない。先輩、智美と うまくいったら見返り期待してますよ。そんなことを考えていたら、関君が 一言。 「仕方がないから、恵さんには僕から夜景プレゼントしますよ」 あはは……冴えないなぁ。 数日後、智美がぽそっと言った。 「先輩、恵ちゃんのこと好きなんだと思う。あいつ一生懸命なんだって、 言ってたよ」 二年後、私は先輩と流れ星を見た。 あれから三十年。智美は実のところ、どう思っていたのだろう。白髪交じりの 夫と夜空を見上げて、ふと、想う。