第 3766 号2021.4.18
「自分 再発見の旅」
月蛾 ミチル(ペンネーム)
家で過ごすことが多くなって、本を読む時間が増えたのは、不幸中の幸 いである。この数か月の間に私は何冊かの本と、数十年ぶりの再会を果た した。 未知の作家の本を探し、購入して読むのは、ゼロから誰かと付き合うかの ようなドキドキ感と同時に、不安も感じる。それが新たな刺激となる時は 良いのだが、今の私にはそれが億劫に感じられて、「そうだ、10代、20代 の頃に読んだものを再読してみよう」と思い立ったのだ。 「とき」は平安時代から現代、はたまた近未来まで。「ところ」はロシア、 日本、アメリカ、チェコ……。 家にいながら私の頭と体は縦横無尽に時空を超え、あらゆる体験をした。 かつて行った(読んだ)場所、出会った人物、体験したことなのに、20年、 30年の時を経て再読すると、まったく新しい感想を持ったり、ある部分は かつてと同じ想いを抱いたり。 「そうそう、あなたって変わってないわね」 「あれあれ?あの人にもこんな側面があったのね」 新しい発見!と思っていたが、待てよ、本はずっと変わらず私の本棚にあ ったわけで、変わったのは私自身ではないか。 一冊の本も、読む側の成長とともに大きな変化を遂げるのだ。若すぎた 私は、男女の機微や人の心の痛み、家族というもの、自然の美しさやはか なさ、子どもへの慈しみ、そして生と死……そうしたものをもしかしたら 表層でしか理解していなかったのかもしれない。同時に、若さでしか理解 できない感覚もあっただろう。 もうひとつ分かったのは、私という人間の根本の一部を作ったのは、実は これらの本だったということ。「あ、私の中にあるこの感じ方ってこの登 場人物の影響だったんだ……」 そんな発見が随所にあって、本のストーリーを追う以外の「自分のルー ツ」探しが面白い。 温故知新の読書は、塞ぎがちだった私の心に、明るさと涼やかな風を運 んでくれた。これらの本を次に読むとき、私はどう変わっているだろうか。