第 3763 号2021.3.28
「桜」
千花
家の近くに、小さな公園がある。 ブランコとすべり台しかないけれど、よく陽が当たり、 いくつもの種類の木が季節を教えてくれる。 息子が幼い頃、毎日ここに来た。 「恐竜!・・だんだん、キリン!」 息子をひざに乗せ、ブランコをこぎながら、 変わっていく雲の形をながめた。 日が暮れるまで四つ葉のクローバーを探したり、 セミのぬけがらを、帽子いっぱい集めた日もあった。 時の流れは早く、 ドングリや花びら握りしめていた手には、 四角い画面が握られるようになり、 長くなった革靴の足は、公園に止まることなく駅へ走る。 「だいぶ 蕾が膨らんできたね。」 公園で、話かける相手が、犬のココに変わって久しい。 仔犬の頃は、私が引っ張られていたのに、 今は、同じ所で土の匂いばかり嗅いでいる。 ココも年をとった。 「私も、か。」 薄曇りの空の下、桜の木は、聞こえないふりをしてくれた。