第 3756 号2021.2.7
「リ・ボーン」
牛久 雄人
コロナ禍の中、1年ぶりに長女が2歳の孫息子を連れて帰省した。 世間では鉄道好きな子供のことを「子鉄」と呼ぶらしい。暫く会わぬ間に初孫も 筋金入りの子鉄に変身。 帽子・服・靴や靴下に至るまで全身鉄道関連のプリントが施されたコーデ& 両手に新幹線のプラレールを大事そうに抱えた姿に、長年娘の成長だけを見守 ってきた私は違和感を覚えたが、最近の男の子は皆似たようなものらしい。 束の間の再会期間中、子鉄の添寝が私の日課となった。子鉄が持参した鉄道 関連の絵本3冊を読聞かせするまでは寝ないと言い張る。 その中の一冊に懐かしいタイトルがあった。1959年岩波書店発刊の『きかん しゃ・やえもん』である。 文壇の重鎮,阿川弘之さんの筆によることをこの時初めて知った。生前、阿 川さんも大の鉄道ファンだったとか。 嬉しかったのは、絵本の中身は元より、挿絵も装丁も50数年前に私がこの 名著と出会った頃と変わりが無かったこと。 ストーリーが甦った。年を取ってクズ鉄にされる運命の機関車やえもんが、 心ある大人の粋な計らいで、子供達といつでも楽しく遊べる交通博物館で幸福 な第二の人生を送るという心温まる内容。 この話に感銘を受けた幼い私は、今は亡き母に懇願。田舎の街から汽車と都 電を乗継いで、万世橋停留所近くにあった交通博物館へ、やえもん君と逢うた め連れて行ってもらった事を思い出した。 私はもうすぐ38年間勤めた会社を定年退職になる。職場の最古参。若手社 員の発想や社風の変化を受容れ難い意固地な自分が居る。やえもんと自分を重 ね合わせ、切ない想いに駆られてしまう。 子鉄が隣で小さな寝息を立てながらスヤスヤと眠っている。可愛い曾孫の寝 顔を見ないまま、鬼籍に入った母の優しい面影が脳裏をよぎった。