第 3749 号2020.12.20
「リーリーの嘆き」
一休さん
妻の誕生日が近づいた。そこでささやかなプレゼントを思いついた。妻の大 好きな動物園に行ってパンダを見せてやろう。 妻は孫たちが家に遊びに来るときまって近くの多摩動物園に連れて行く。孫 サービスは口実で、実は本人が一番行きたがっているのだ。 上野動物園に開園前について、ようやくパンダ舎に入れたのはお昼前であっ た。パンダ舎入場は20人ほどに区切られて、めでたくご対面となる。母さん パンダのシンシンと赤ちゃんパンダのシャンシャンが入るパンダ舎は広くて立 派だ。180度の円形劇場の様になっている。 「今日は、運よくシンシンとシャンシャン親子が外に出て木に登り遊んでい らっしゃいます」とのアナウンス、急いでカメラを取り出す。傑作をものにし ようと焦るが、なかなかファインダーの中にシャンシャンの姿が入らない。3 0秒ごとに合図があり、一つ前のゾーンに進まなければならない。ようやく4 つ目のゾーンで、こちらを向いたシャンシャンのアップをものにすることが出 来た。 瞬く間に所定の2分が過ぎ、パンダ舎の外に出て木陰で休んでいると、思い がけないことに気づいた。何と陰にもう一つ別のパンダ舎があるではないか。 このパンダ舎は別に整理券をもらわなくても自由に見ることが出来るのである。 そこは父さんパンダのリーリーの住まいであった。 リーリーはかなり薄汚れした大きな図体で、遊具の上でお尻をこちらに向けて 寝そべっていた。別に眠っているわけではなく、退屈を持て余している風であ った。しばらく見ていると、何と見物人の方に向けてうんちをするではないか。 父親の威厳などあったものではない。私には「父親をさておいて、母と娘ばか りが何であんなにもてるのだ」とふてくされているように見えた。 妻は念願のパンダ見物ができて満足の様であったが、私は考えこんでしまった。 「世の、お父さん方があのリーリーの姿を見たら身につまされるだろうな」と。