第 3739 号2020.10.11
「双子の変遷」
ノエル(ペンネーム)
私には双子の弟がいる。と言うと大抵の人に驚かれる。こんなにキャラが 濃い人間が2人もいるのか!と驚く人もいるが、純粋に双子という存在を 珍しがる人の方が多い。そして、いわゆる双子あるあるを披露する羽目に なる。 しかし、物心ついた時から20代まで私達はいわゆる世間がイメージする ような仲睦まじい双子ではなかった。そして、その原因は100%私にあった。 早熟だった私は小学一年生の時から、自分と同じ容姿と声を持つ存在が いることに耐えられず、弟をあからさまに無視したり、友達の前でから かうようになった。そして、思春期の頃にはお互いにまったく口を聞か ない関係になった。 幼児期に祖母に預けられていた弟は両親にもあまり馴染めずあげくに 私には邪険にされ、随分と辛い少年時代を送ったはずである。にも関わらず グレることなく、弟は素直で心優しい青年に成長し、いつもたくさんの友人 に囲まれていた。実はそんな弟のことが眩しくてちょっと尊敬もしていた が、今さら態度を改める訳にも行かず、二人は険悪なままだった。 しかし、29歳の時、そんな二人の関係を大きく変える大事件が起きる。 弟が車に撥ねられ、意識不明の重体になったのだ。その一報を母から受けた とき私はとっさに「なんで死ぬねん!まだ何も返せてないのに!」と叫び、 弟の存在の大きさと彼を失うことの恐ろしさに気がついたのだった。 しかし、奇跡に奇跡が重なり、弟は意識を取り戻し、今では中学生と 小学生の良きパパになっている。 私も憑き物が落ちたように素直に弟と話せるようになり、たまに弟と ライン電話することを心から楽しみにしている。双子だから当然悩みも考 えることも似ているので、結局何も答えは出ないのだが、お互いに最後に はいつも、なんか元気になったわ、ありがとな、と言って別れる。 そして、つくづく双子で良かったと呟きながら、過去の自分を思い出し た私は少し苦笑いするのだった。