第 3737 号2020.09.27
「似てきた夫婦」
可芳里(ペンネーム)
夫からその話を聞くのは何度目だろう。 夫は同じ話を何度もする。決してボケているわけではない。 80歳を迎えたが、同年齢の人に比べると元気でしっかりしているし、若く 見られる。規則正しい生活をしているおかげだろう。とは言え、やはり 年相応に衰えてはきている。 以前私は「その話を聞くのは何回目かしら?」といちいち反応し、嫌な 空気を作っていた。人としての器が小さかった、とでも言うべきか。 ところが最近、ちょっと考え方が変わってきた。『同じ話』と思うから 腹が立つのだ、『歌を歌っている』と思えばいい。 『歌』は何度歌っても同じ歌詞、誰もその同じ歌詞をとがめない。 とがめないどころか覚えて口ずさむ。そうだ、夫は歌を歌っているのだ。 先日娘に言われた。「お母さん、その話何回もしてるよ。」 ドキッとした。私も夫と同じことをしていたのだ。 夫と私は似たもの夫婦、いや似てきた夫婦。 ひょっとして夫は私の『同じ話』を黙って聞いていてくれたのかも知れ ない。 48年前、「健やかなる時も、病める時も・・・」互いに誓い合ったふた り。私たち夫婦はこれからも、それぞれに色々な『歌』を歌っていくに違 いない。 できるだけ短くて楽しい『歌』を歌いたいものだ。