第 3698 号2019.12.08
「 おでん 」
石川 恵子(愛知県西尾市)
冬になると思い出す懐かしい味。亡くなった父が作ってくれた「おでん」です。大きな鍋に大根・コンニャク・ゆで卵に、がんもどき。ねじり昆布・竹輪。極めつけは、丸ごと一個入れるジャガ芋。私達が実家に泊まりに行く前日からコトコト煮込んでいるので、すべての具材が茶色に色付き部屋中に良い香りが漂よっていました。居間の隅に置いてある火鉢でコトコト・コトコト。何度もお出汁をつぎたして煮込んだ鍋いっぱいの「おでん」と父が私達を、と言うよりは孫達が泊まりに来るのを待っていてくれました。熱々の「おでん」を美味しそうに食べている孫達の顔を、目を細めながら眺めて「俺の作ったおでんは、美味しいだろう!」と何度も何度も子供達の顔をのぞきこみ聞いていた姿が懐かしいです。特に可愛がってもらった初孫である長男は、今でも「おでん」が大好きです。父が作ってくれた「おでん」の味。どうしたら、あの「おでん」の味が出せるのだろう。どうして、ちゃんと教えてもらわなかったのだろうか。私が五才の時に、母は亡くなりそれからは父が男手ひとつで私と妹を育ててくれました。
料理は、一から覚え、沢山の料理本を購入し、見ながらつくり並々ならぬ苦労だったと思います。手間を掛けて私と妹に美味しい御飯を食べさせてくれました。思春期で父と話す事が減り、反抗期では、衝突ばかりでした。そして、跡取り娘の私は、父をひとり残して嫁いで行きました。父からもっと料理を教わっておけば良かった。今となっては、後悔ばかりです。お父ちゃん、なかなかお父ちゃんみたいに美味しい「おでん」が作れません。それでも、家族の美味しい!の一言と、美味しかった父の「おでん」の味に近づける事を目標に今日も「おでん」をコトコト・コトコト煮ています。