「 最後のお習字のクラス 」
三枝恭子(横浜市)
来週の金曜日は97歳の母の最後のお習字のクラスになる。父が60歳で突然心臓発作で亡くなった時、母は52歳だった。それから20年はまだ学生だった子供たち、その後孫の世話、同居していた父の姉たちの世話、家族を支えるという彼女の役割は変わらなかった。
やっと自分のためだけに何か好きなことをする、というのは70歳を過ぎてから。その1つがお習字のクラスだった。最初の先生方も引退、今の先生も随分なお年になったが、母は毎月2度のクラスに、よほどのことがない限り出席する。いや、本当にいそいそ出かけていく。クラスもだんだん小さくなり、最年長の母より若い方達も、色々な理由で来なくなっている。
最初は字が上手に書けるようになりたい、と始めた母は、80歳の半ばに、ある時、あ、私は本当にうまく書けるようになったと、思った瞬間があったという。その思いでさらにあと10年頑張ることができたようだ。
最近はお仲間との交流が嬉しく、またありがたくて、それも続ける動機になった。母より一回りもふた回りも若いお友達が、何かと母に気を使ってくださる。クラスには1時間半でそのあとは必ずお友達と昼ごはんを食べる。外食をいうことをほとんどしないで生きてきた彼女にとって、この会食の嬉しさは、格別だと思う。
流石に4、5年前から、そろそろやめる時が近づいている、と本人も周りも思うようになり、その日がとうとうやってきた。字が書けなくなり、皆さんに気を遣わせるのが心苦しい、というのが理由だ。周りは、そんなことない、そんなこと気にしないで、やめられると寂しい、とおっしゃってくださるけれど。
遠くにいてなかなか母と時間の過ごせない娘として、お友達や先生への感謝は、言葉では言い尽くせない。母も、偉かった、よかった、と自分の母でありながら感心する。そして、皆様、本当にありがとうございました。