第 3685 号2019.09.08
「 本屋 」
渡辺 稔大(武蔵野市)
また本屋がなくなった。もう何度も経験しているはずなのに、出し抜けに「閉店します」の張り紙を目にすると、やっぱりうろたえてしまう。ままあって、これまたお決まりの感想が湧き上がってくる。「そりゃそうだよな…」。
この街に引っ越してから、駅の北側にある本屋はすべて姿を消した。あとに店を構えるのは、なぜかドラッグストアやコンビニと相場が決まっている。店員さんが発する甲高い「いらっしゃいませー」を聞いていると、そこが本屋だったのが嘘みたいに感じられてくる。
子どものころ、近所にあった洋傘店を思い出す。確かそこで、アニメのキャラクター柄の傘を買ってもらったんだっけ。
やがて傘は量販店で買うものとなり、出先のコンビニでビニール傘を手にする頃には、洋傘店の存在すら忘れていた。
とはいえ、今でも雨が降れば傘は必要になる。洋傘店はなくなったけど、傘まで消えたわけではない。さて、本はどうだろう。
餞別代わりに本を買っていこうと思い立ち、品定めをはじめる。どうせなら、雨の日に傘を必要とする以上の切実な本を選びたい。
棚をぐるりと歩きながら、店のブックカバーをつけてもらおう、と考える。せめて、ここに本屋があったことを忘れないために。