「 幸せ宅急便 」
種川 久美子(北海道河東郡音更町)
珍しく風邪を引いた。咳が続き、熱も少し出ている。義母も体調がすぐれない。いつになく頼ってくる。友人とのお花畑巡りの約束も果たせていない。子供たちのお盆帰省が近づいているが布団干しもまだしていない。あれやこれや、頭が痛い。気が滅入る。
ピンポーン。お客様だ。ああ、今日はお化粧もしないままだった、と玄関に出るのも躊躇われるが、せめてもとエプロンの裾だけ引っ張り伸ばして、ドアを開けた。
「幸せお届けに来ました」
ご近所のIさんが、少し斜め上に顔を向け、照れている様ないたずらを仕掛けている様な、そんなお顔で立っていた。
えっ?と首をかしげながらも、Iさんの表情に誘われるように心の奥の方にポッと灯がともり、思わず笑顔になった。
「はい、新しくできたあそこのチーズケーキ」
Iさんは、あそこと左の手をあげて、肩のところで後ろの方を指さしながら話し続ける。
「昨日私、お隣からお裾分けって頂いたら、すっごく美味しくて。今ね、髪を切りに出かけてきたんだけど、お店がその隣でしょう。思いついて、あなたに。ほら、裏のTさんの分も買ってきたの」
にこにことお日様のような笑顔を見せて、二つの小さな紙袋を自分の目の高さまで差し上げて、そのうちの一つを、私の手によこした。
おしゃれなラッピングが施され、小さなリボンまでついている。
「美容院に入る前のお店によって、予約したの。ラッピングがまたいいでしょう。素朴で、おしゃれで」
嬉しい、ホントおしゃれ、と応じながら、切ったばかりという髪にふと視線がいった。
「髪は失敗。気に入らない。でも今日はいいの。幸せ宅配できたから」
ハハハと笑って、Iさんは帰って行った。Iさんは七五歳。難しい持病も抱えている。
でも、いつでもお元気で、お顔を見ただけでこっちまでが元気になる。
まるでお日様だ。
頂いた幸せは抜群に美味だった。