第 3679 号2019.07.28
「 盆踊り 」
鴫原 由美子(板橋区)
「由美子ォ~。畑で胡瓜とトマト、とってきてけろ」
小学三年の夏休み、プールから帰ると、祖父がよく通る声で私を呼んだ。
「やんだ。今泳いできたばっかりだもの」
けれど結局は祖父と一緒に太陽がじりじり照りつける中、夏野菜を収穫した。お昼の食卓ではそれらがテーブル狭しと並ぶ。入口の戸は開け放したままなので、トンボやカナブンが入ってくる。私は虫を片手で払いながらじゃが芋とサヤインゲンと玉葱の味噌汁をかきこむ。おかずは茄子とインゲンの油炒めに胡瓜と茄子の塩もみ。トマトには母がたっぷりと白砂糖をかける。酪農家の我家ではお米も味噌も野菜も自家製が当たり前だった。
夜になると、ホタルが飛び交う道を歩いて盆踊り会場に向かう。
唄と太鼓と笛の音が響いてきて、私の胸は最高潮に高鳴る。
白地に黒や赤の金魚模様の浴衣を着た私に、祖父は「よく似合っている」と目を細めた。
小学校の校庭には大きな櫓や提灯がしつらえられ、子どもや大人の踊り手の輪が二重にできている。櫓の上では祭りの主役ともいえる唄い手が『ハア~ア、ヨイヨイ』と自慢の喉を響かせる。
ねじり鉢巻きで笛を吹く人、太鼓を叩く人、どの顔も熱く勇ましい。
夜空に花火があがった。トマトの赤、人参の朱色、胡瓜の緑。
祖父と採った野菜の色だ。
祖父は亡くなる直前、よくテーブルを太鼓がわりに手でたたき、『ハア~ア、ヨイヨイアラドッコイ』と盆踊り音頭を唄っていた。
後に分かったのだが、若い頃の祖父は盆踊りに唄い手をして美声を披露してきたという。櫓の上で唄う、若き日の祖父が目に浮かぶ。
今年の郷里の盆踊りはいつだろう。