第 3675 号2019.06.30
「 おじいちゃんのウソ 」
アップルパイ(ペンネーム)
私が母から聞いた昔の祖父は、
無口で厳格な亭主関白だったらしい。
しかし、当時こどもだった私の目に映る祖父は
母の話す祖父とはかけ離れた、優しく温かい人だった。
人が変わったようだ、と母が首を傾けるのがおかしくて、
少し嬉しかったのを覚えている。
祖父の部屋に行くと、必ず美味しいお菓子をくれたし、
アニメ映画を見せてくれた。
そんな祖父は、私が子供の頃には既に
全ての髪が綺麗な白髪頭だった。
私は子供の頃、無邪気に祖父に尋ねたことがある。
「おじいちゃんはどうして髪がまっしろなの?」
祖父はいつもの柔らかい笑顔を浮かばせて答えた。
「おじいちゃんはね、髪を洗いすぎちゃったんだよ。
ゴシゴシ洗ったら白くなっちゃったんだ。」
今ではすぐに冗談だと分かるのだが、
まだ幼稚園に通っていた当時の私には衝撃的だった。
それから3、4年ほど、
わたしはその祖父のかわいいウソを信じ続けていた。
髪を洗いすぎないように注意したりもした。
しばらく経ってから、それが冗談だったと気づき、
母にその話をすると予想通りの大笑いをしていた。
祖父の冗談に、というより、
祖父がそんなユーモアのあるウソをついたことが
面白かったのだと思う。
私にもいつか孫ができて、白髪がでてきたら
同じウソをついてみようかな、なんて考えたりしている。