「 手すりのあの人 」
MAIKO(ペンネーム)
やっぱり違うなぁ。
朝の地下鉄の駅。きれいにしてくださるお掃除スタッフのみなさん。
誰でも同じようで、同じじゃない。
あの人は違う。ほかの誰とも違う。
階段の大理石様の手すり。あの人が磨くとどうしてあんなにきれいになるのか。
あまりのピカピカぶりに思わず声を掛けたこともあった。
朝、姿を見つけるのが嬉しくもあった。
でも、ある時から姿を見かけなくなった。
たまいつか戻って来られるだろう。そう思いながら時は過ぎ、
そのうち、記憶は薄れていった。
数ヶ月後のある日、いつもは使わない地下鉄の駅を利用した。
エスカレーターを降りる時、お仕事中のあの人とすれ違った。
一瞬声を掛けようと思ったけれど、そのまま電車に乗ってしまった。
でも、二駅先まで行ったら、居ても立っても居られず、下車して向かいのホームの電車に乗り、元の駅に戻った。「まだいらっしゃるかなぁ」
姿を探す。改札内にはいない。改札の外を見回すと、声が届きそうな場所でバケツを持つあの人がいた。
「お掃除の方~! すみませ~ん! ちょっとこちらにきていただけますか~!」
柵越しに大声で叫ぶ。気づいてくれた。こちらに近づいてくる。
「お仕事中にすみません。以前、〇〇駅でお掃除の仕事をされていませんでしたか」
「していました」
よかった。人違いではなかった。
「あの…、毎朝お仕事される姿を見ていて、カッコいいと思ったんです。特に手すりがいつもピカピカだったのが印象に残っていて…。いつの頃からか、お見かけしなくなって、どうされたんだろうと思っていました。
今日、偶然姿をお見かけしたので、どうしても声を掛けたくなって」
「そうなんですか。ありがとうございます。数ヶ月ごとに担当の駅が変わるんですよ。ここもあと2~3週間です。気を付けてお出かけくださいね」
私は再び目的地に行くためにホームに向かった。さっきとは違うすっきりとした気持ちに包まれて。