第 3667 号2019.05.05
「 旅に出るまで 」
スピカ(ペンネーム)
旅が好きだ。旅に出る前の準備の時間が好きだ。
あれは、どのエッセイだったか、向田邦子さんが、美味しいものを注文してから届くまでを期待して楽しみに待つことで、うまいものがより美味しく感じられる事を「思いもうける」と書かれていたが、私にとっての旅はまさにそれ。
勿論、旅の醍醐味は実際に現地に赴く事で、それが最大の楽しみではあるのだが、一度出発してしまうと、旅はひたすら終わりに向かって終息していく。だから、どことなく旅はさみしい感じがする。準備段階でも、それは同じ事かも知れないが、準備をしたり現地の事を調べている時は、出発という区切りまでが、第一段階のゴールで、そこまでテンションを上げ続ける事が出来る。しかし、一歩でも旅が始まると、急速に終わりが見えてしまう。
私にとって旅は、この上ない楽しみであると同時に、儚さを伴う喜びなのだ。
だから、旅に関する時間で、私が一番情熱的なのは、旅の準備を始めた時だ。やりたい事、行きたい事で、頭が爆発しそうな興奮状態になり、そのまま旅までの数ヶ月を過ごす。そうして、一抹のさみしさを抱えながら出発する。毎年、毎回。そう、次の旅もまた。