第 3666 号2019.04.28
「 バラを育てる 」
木越 掛(ペンネーム)
今年も4月下旬になって、ベランダの鉢植えのバラが咲き始めた。今も、深紅、ピンク、そして純白のバラの花が代わる代わる香り豊かに咲いている。
若い頃は、花を観て綺麗だと思ったり、時には贈り物に選んだりすることはあっても、それを育てるという発想は全くなかった。ところが、今から6年前、下の子供が社会人になったのを機にバラを育てることにした。一般に、育てるのが難しいと言われるバラのこと。子育てに代わってやるなら、挑戦し甲斐があるものが良いだろうと思ったからだ。
その年の暮れに、近所の園芸店で初心者向きだと勧められた品種の苗を一株購入し、やや大きめの鉢に移植して半年、「バラは人の足音を聞いて育つ」という諺通り、関心を持って世話を続けていると、初夏になって見事な大輪の花が咲いた。ずぶの素人でも出来るじゃないかと自信を持ったばかりでなく、家族も少しは私を見直してくれた。
その後も、秋の終わり頃までずっとバラがベランダの主役だった。
確かにバラは、人一倍手間がかかるが、それだけに特に蕾が膨らみ始め、花が咲き誇るまでの2~3週間はとても愛おしい。毎朝ベランダへの扉を開ける際に感じるワクワク感は、幼い子供の成長を日々楽しんでいた若い頃に通じるものがあった。
ところが、それだけに留まらなかった。瑞々しい花が見せる可憐な表情の魅力を少しでも引き出そうと写真撮影のテクニックに磨きを掛け、心を過る感動を残したいと俳句をひねり、育てる対象もバラから家庭菜園の野菜作りへと一気に拡大したのだ。
私自身は、バラを育てているつもりだったが、実際に育てられていたのは、どうやら私の方だった様だと、最近感じている。