第 3662 号2019.03.31
「 大切なもの 」
山下 千花(足立区)
中学時代、日記を書いて担任の先生に提出しなければいけなかった。翌日には、先生からの返事が書かれて返ってくる。担任の先生は、スポーツ刈りの体育の先生で、大きな声がよく響いた。私は、しなければならない事には全て反抗したくなる年頃だった。
その日も、とんがった気持ちの先っぽで日記を書いた。
『毎日、学校では勉強が一番大切なのだと教えられている。だけど、私の一番大切なものは、私が決める。私の一番大切なもの、それは友だちだ。』
私は、言ってやった・・くらいの気持ちでいた。次の日、私の鉛筆の丸文字の下に、行からはみだしそうな真っ黒なボールペンの文字で、先生は返事を書いてきた。
『大切なものに無理に順位をつけなくたっていい。勉強も大切。友だちも大切。家族も大切。みんな、君の一番大切なもの。それでいいじゃないか。』
先生の言葉は、やわらかかった私の心に、その筆圧と同じ強さで刻まれた。たぶん、私は生まれて初めて、薄っぺらな自分を恥じたのだ。40年前も前の話である。
身体にも心にも、たっぷりと贅肉をつけ、私はいろいろとぶれたり見失ったりしながら歩いてきた。それでも、長く歩いた分、大切なものは確実にふえていった。誰にも、時間的な制約の中で優先順位をつけなければいけない場面はある。でも、それは一時的な時間割の手段にすぎない。振り返れば、たくさんの大切な人たち、大切な時間、そこに順位は要らない。そう思うと、ただありがたく、迷いが消えていく。
みんな、私の一番大切なもの。それでいいじゃないか。