「 親の家を片付ける 」
ミランダ(ペンネーム)
近所に住む義父母の家が汚い。汚いというか、物で溢れている。結婚して家を出た息子二人の部屋は、床一面、胸の高さまで物が積み上げられている。これ以上見て見ぬ振りはできないと片付けを手伝う事にした。
「ごめんなさいね、私もやろうと思っているのよ。」物がつかえて半分しか開かない戸の隙間から義母の声が聞こえる。大量の古新聞や雑誌、故障した電気機器、忘れ去られた衣類を処分しながら物の山を掘り進めていくと、ぱんぱんに膨らんだレジ袋があった。新聞広告らしき中身が透けて見える。レジ袋ごと捨てようとすると、「ダメ!それは捨てちゃダメ!」と義母が隙間から顔を出して叫んだ。下山して袋を義母に渡すと、「私のおばあちゃんが作ったの。広告で作った箱。
これ、果物を食べる時にすごい便利なのよ。」しみじみ言う。「こんなに沢山要る?ここにあっても使えないよ」と私が言うと、「でも台所にも置く場所ないの。その辺に取っておくわ」と言って義母はレジ袋を山の奥の方にぽーんと投げた。
気を取り直して。物の上に登り、奥のクローゼットに手を伸ばすと、引き出物と書かれた箱があった。中身は白い布と「お仕立券」と書かれたカード。某デパートでオーダーメイドのワイシャツが作れる、ということだったらしいが、かなり古い。「これ、処分してもいい?」と義母に尋ねると、「あ、これ、懐かしい~!こんなの知らないでしょう!これでシャツが作れるのよ。期限が切れていても、追加でお金を出すとまだ仕立ててくれるって。前に電話で聞いたの、まだ出来ますかって。」と少しはしゃいだ調子で答えるのだが、お仕立券の期限は昭和46年となっている。所々に黄色いシミができ経年劣化しているこの布で、一体誰のワイシャツをお仕立てするつもりなのか聞いてみたかったけれど、嬉しそうな義母を悲しませたくなかったから言わなかった。ゴミだけ捨てて引き出物はクローゼットに戻した。
流行っているらしいが、親の家を片付けるのはとても難しい。