「 往復ハガキ 」
山本 利喜子(ペンネーム)
今日届いた郵便の中に私あての往復ハガキがあり、差し出し人は小学校時代の学級委員長のN君です。
『六年一組の皆様へ。九月十五日に喜寿の会を開きます。場所は小学校前のレストラン。担任のトウガラシ先生は、もうこの世におられませんが、皆さん山盛りいっぱいの話題を胸に十二時にご集合して下さい。』
手紙は嬉しいものです。六年一組は三年間共にすごした男女共学の五十二名です。
このハガキは一瞬に、遠い昔の短くもはかない少女時代の幸せ、楽しさ、甘ずっぱい初恋にも似るノスタルジーの世界へといざなってくれました。おばあさんがナゼ、男女共学にこだわるかといえば、女学校しか知らないのです。あたい千金、走馬燈を見る夢の追憶は、区立小学校での日常生活です。
教室風景は黒板を前に机とイスの配置を、凹字形なので友達の顔が見える楽しい授業でも、給食時間は苦手な脱脂粉乳ミルクをいつも泣き顔でひと口、胃に流していた私。
夏休みには、市ヶ谷の外堀でトウガラシ(独身男性教諭)がこいで下さるボートに、皆んなで交代しながら乗って、楽しく遊んだ事。日直当番でする冬の石炭ストーブ掃除では、K君と二人で赤くなっている石炭を、水が入っているバケツに、ボチャンと落とし灰かぐらを立てて大さわぎし、トウガラシに叱られながらもきちんとやりとげた事。鎌倉へのバス遠足には、くるま酔いの激しい私に母が同行した事。算数といたづらが大得意の山ザル君や、少女雑誌からぬけ出たような美人のT子さんや、ガキ大将のM君は……と、ドップリの想い出に浸かった私は(弱虫、泣き虫、かわいい山ネコちゃんは出席よ)とハガキに記し終え、さて、今日の晩ごはんはと現実の主婦になり、病み上がりの八十三才の夫が喜ぶ茶わんむしをガス台にかけています。ビタミンIをちょっと加えて。