第 3635 号2018.09.23
「 失恋とバレエ 」
秦 レンナ(さいたま市)
失恋して7ヶ月がたった。
もちろん今でも彼のことを思い出す。なにもかもが不自然で、彼のいない日常というものがぜんぜんピンとこない日もある。
だけどわたしは毎朝6時50分に起き、朝ごはんを食べ、会社に行き、仕事をし、ちゃんと笑ったり、怒ったりしている。
見違えるような成長なんかしていないけれど、今はこうして日々を再生していくだけでも十分だと思えるようになった。
ひとつ、わたしの生活が変化したことといえば、バレエを習い始めたこと。
ずっと憧れていた。しなやかに伸びたダンサーの手足、長い首筋、美しい衣装、優雅で力強い動き。
32歳からバレエを始める。だけど今しかない、という気がした。
案の定、パソコンばかりして凝り固まったわたしの体は重く、ぎすぎすしていて、憧れの軽やかなステップとはほど遠い。
必死になってみんなについていく。プリエ、ロンデジャンプ、パッセ……
音楽が流れ、鏡の前で足を閉じたり広げたり跳んだりしながら、わたしはすっかり夢中になっている。
こんな時間は久しぶり。何も考えずに、自分の体だけに集中する。目の前に映っているのは、がに股でぎこちなく踊るかっこ悪いわたしだけど、失恋でふらふらになっているわたしよりよっぽどいい感じだ、という気がする。
10月には進級審査がある。通勤電車のなかでつり革につかまりながら、足元ではこっそりおさらいする日々だ。