第 3628 号2018.08.05
「 「富士山」と「ふじさん」 」
月絵美菜(ペンネーム)
あれは息子がまだ三歳の夏。毎年訪れていた静岡の遊園地のプールへ、たまにはゆっくり行こうと富士高原の宿に泊まりに行った時のことでした。
案内された部屋の中をワイワイ言いながら子供達三人が探索し、大人は荷物を運び込んでやれやれとソファに腰をおろしました。
「ねえ、ベランダに出てもいい?」
と六歳の長女が聞くので
「けんかしないで仲良くね。」
と答えると、三人はそれぞれ自分のビーチサンダルを荷物から取り出し、我先に!!と、ベランダへ走り出て行きました。
すると、普段あまり大声を出さない五歳目前の次女が叫んだのです。
「見て、見てー、すごいよ。富士山だよ!!」
「えっ」
と思わずスリッパのまま走り出た私。
目の前には、ドカーンと大きな、大きな山がありました。いつも遠くから眺めている姿とは全く違う、迫って来るようなパワーを感じる「富士山」でした。圧巻。
その直後、三歳の息子がニコニコしながら「ふじさーん、どこですかー?かくれてないで、出て来てくださーい。ふじさーん。」
皆、ポカンとして息子を見つめました。
どうやら息子は「富士山」を、誰かの名字だと思ったようで、なかなか姿を現わさない「ふじさん」に呼びかけたようでした。
夏の高原の爽やかな空気の中、ほっこりとしたひと時が、そこにありました。