第 3602 号2018.02.04
「 ワンコイン・デミタスカップ 」
新星 いつ希(ペンネーム)
三年前に東京の下町、谷根千に住むようになり、近所の根津神社には足繁く通っている。
その根津神社のすぐ裏に小さな骨董屋があり、食器などを扱っている。骨董というと、テレビの鑑定番組でしかなじみがなく、素人がヘタに手を出すと危険な、自分とは無縁のものと思っていた。
引っ越して間もない頃、散歩のついでに冷やかしで店に入ってみた。店内には年季は入っていそうだが、一人住まいのささやかな暮らしには大げさに思える大皿や茶碗のセットが並んでいた。
その中に、淡いブルーのケシの花柄のデミタスカップを見つけた。裏を見るとウエッジウッドの刻印があり、値札には五百円の文字。
普段コーヒーを飲むためのマグカップは持っていたが、デミタスカップという、普通に生活するにはあってもなくてもよくて、むしろ実用性から考えるともの足りないくらいの中途半端さが、初めて骨董屋で無駄遣いとも言える買い物をする自分にとってちょうどよく感じた。何より値段が魅力的だった。
こうして我が家に小さなデミタスカップを連れて帰った。
予想通り小さ過ぎて普段頻繁に使うことはない。ただ、毎日食器棚を開けるたびに小さなケシの花が品よく咲いているのが目に入る。
その声高に存在を主張するでもなく、実際に使われるでもなく、食器棚でちんまりと咲いている姿は愛らしく、私の毎日に色を添えてくれている。
初めての骨董屋での買い物は無駄遣いではなかった。