「 僕のすきなもの 」
小山 ひかる(ペンネーム)
ある日「あなたのすきなもの・ことはなんですか?」と聞かれて、僕は少し困ってしまった。
これといって誰かよりも優れた特技があるわけでもなければ、そこらへんの人より絶対にこれについては愛情があるというような趣味があるわけでもないし、毎日のように素敵なイベントがFacebookにあがるようなキラキラした大学生をしているわけでもない。映画、音楽、小説、コーヒー、酒、飯。そんなものを自分が満足する程度に味わうくらいだから、これだと選び出すのは僕にとって簡単な仕事ではない。
あえて無理やりに選びだせというのならば、こうやって期待に胸を膨らませて文章を書いているたった今だとか、そんな日常の一瞬一瞬が僕のすきなもの・ことなのかもしれない。
日常に置き換えてみると…たとえば、朝にだいきすなコーヒーをうまく淹れられた日が一日が楽しみになったり、がむしゃらにみている映画のなかに光るものがあったらいつも以上に重力を感じたり逆に重力を感じなくなったり、だいすきな音楽をきいて少しだけ小走りになったり、お酒飲んだあとについつい行ってしまうラーメン屋で食券を買ってから猛烈に後悔をしたり、苦手な英語と少しずつ友達になろうと試みるけど嫌がられて今まで放っておいてごめんねって誤ったり、他にもいろんな「~たり」があって、その一つ一つが僕のどうしようもない毎日に、水を付け過ぎた絵具のようにじんわりと幸せをにじませてくれる。
きっとこんな毎日はあまりにもありふれていて、面白味に欠けるかもしれない。でも、たとえ他人からしてみれば僕の毎日はFacebookにあげられるほど華やかなものではなかったとしても、僕にとっては一つ一つの毎日に丁寧に名前をつけて、全部のページに栞をはさみたくなるくらい、こんな日常の一瞬一瞬が僕にとってはすきなもの・ことなのだと思う。
だから僕は、あの質問に対して長くゆっくり考えてからこう答えた。
「僕の好きなもの・ことは、このつまらなく、うんざりするような毎日です。」
と。