第 3592 号2017.11.26
「 無題 」
今井 美紀(柏市)
女子高時代からの友達が、今では空を飛んでいる。彼女はコックピットに座り操縦桿を握って滑走路を走り出す。
出会った時から本当に穏やかな性格で、二人で話していると温かい日向で過ごしているような気持ちにさせてくれる人だった。
怒ったところも見たことがないし、いつもひょうひょうとしている。ケセラセラが座右の銘だと折に触れて口にした。こんなにぴったりの言葉があるものかしらと思ったのが懐かしい。
そんな人柄なので、パイロットを目指すと打ち明けられた時、心配が先に顔を出した。もっとキビキビとしていたり、厳格な性質だったりしないと向いていないんじゃ、と。
それでも訓練が決まればささっと海外の学校へ通うことを決めて一人で旅たち、めげずにそれをやり遂げた。その頃の生活について聞いても、そりゃあ苦しいこともあったけどねと微笑むばかりだ。
ああ、私はあの子の何を今まで見ていたんだろう。そう気づかされた。いつも人にやさしくあるには芯の強さがなければ、成せないはずなのだ。決して私にだけでなく誰に対しても優しく温かさを振舞ってくれる彼女が大好きだ。
今日もまた彼女は飛行機に乗る。空を飛びたいという願いをかなえた後、みんなを乗せて飛ぶという夢が加わり、また新たな訓練生活へ向かって歩みを進める頼もしい背中があった。