第 3587 号2017.10.22
「 歌 悲しみの郵便ポスト 」
馬場 知徳(東久留米市)
うちの近くの廃業したたばこ屋の横に
例の赤い郵便ポストがあるんです
古いポストさ
学帽をかぶって立っているあれさ
その人がね
ちょっと悲し気なのさ
なにが悲しいのと聞いてみたら
さみしい…と言うじゃないか
郵便局員は日に三度きちんと来ているよ
僕だって昨日も投函したよ
何を…と言うじゃないか
だから役所からの通知の返信さ
昔の私のおなかの中は
喜びや悲しみやお願いや報告でいっぱいでした
わたしは手紙を読むのが生きがいなのです
田舎のおばあちゃんへの手紙
外国で働いているお父さんへの手紙
旧友への手紙
恋人への手紙
みんないいものでした
中には借金のお断りの手紙もありました
貸したいけれど貸せない悲しみがありました
ところがどうです
今わたしのおなかの中は
読むべきものはなにもありゃしません
人の手で書いたものがほとんどないんです
いつのまにか人が字を書かなくなった
ひどいもんです
でもね
まだときどき十二番地の理絵ちゃんが
おじいちゃんに手紙を書いているんです
理絵ちゃんが投函するとね
あたしはそっと受け止めるんです
僕はすこしホッとしたものだ