第 3584 号2017.10.01
「 足ながおじさん 」
大島 直美(世田谷区)
幼い頃、母から買い物を頼まれ弟と二人で近くのお店に行った時のことです。もう夕刻であたりは暗くなっていた頃でした。
お金(お札)を握りしめて大通りの端を二人で手をつないで歩いていたのですが、ふとした拍子に手に持っていたお札を側溝の中に落としてしまいました。フタのすきまから落としてしまい、目には見えていても手は届きません。弟と二人途方に暮れてどうにかして取れないかと泣きださんばかりに困り果てていました。
スッと千円札を出してきて、私の手に渡してくれる男性が…。
幼いながらも見ず知らずの人からお金をもらってしまうのはどうかと思いましたが、私たちのどうしようもない状況を見るに見かねて救いの手に思わずしがみついてしまった私でした。
お礼を言う間もなく、私と弟が安堵している姿を後ろにその方は足早に立ち去っていってしまいました。
まさに、神対応であり、そのさりげない優しさに感動してしまいました。
弟は覚えているかわかりませんが、私はその時のことが決して忘れられません。母にそのことを話してしまうとお金を落としたことがバレてしまうので、その時は報告できなかったように思います。
もう時効でしょうか。
名も知らぬ顔もわからないその素敵なあしながおじさんー。
現代には夜の子供の買い物は危険すぎますが、昭和40年代の頃にはこんな温かい話が現実にあったのです。