第 3578 号2017.08.20
「 星 」
渡会雅(ペンネーム)
「あっ、ロッキー君がいる!」と、孫が雲の切れ間の星を指さす。
人間の年齢に換算すれば白寿越えの老犬が一年前に逝ったとき、「星になったのよ」とバアバが教えてくれたことを四歳はちゃんと覚えていたのだ。
絨毯を取り替え、念入りに掃除し、愛犬の痕跡をすべて消したリビング。
ある日、孫の「ロッキー君が寝てる」の一言に驚く。
そこには何もいなかったからだ。
子供には見えて、大人には見えない…。
爺婆は顔を見合わせたものだが、
今、孫には星が犬の顔に映っているのかもしれない。
「でも、お星様一つだけで金魚君がどこにもいない」
孫は先日庭にお墓をつくって埋めたばかりの大好きな金魚も、土の中ではなく天の星になったと思っている。
いつの日か、私が逝くことがあっても、「あっジイジがいる」と、きっと明るい顔で孫は夜空を指さしてくれるのではなかろうかーそんなことを想っている私に孫が嬉しいことを言ってくれる。
「ジイジがお星様になるときは、銀河鉄道の特等席に乗せてあげるね」
孫は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』(私がプレゼントした幼児版の絵本)がお気に入りなのだ。