第 3572 号2017.07.09
「 不思議な関係 」
野村 祐司(国立市)
不思議な関係と聞いて、私が真っ先に思いつくのは、散髪屋さんとの関係である。不思議というよりも苦手な関係と思っている人も多いかもしれないが。かく言う私も学生時代は苦手が高じて、好きでもないし似合いもしないのにロン毛になったりしたものだ。
どちらにしろ、友達でもないのに、一定時間、話し続けなければならない関係というのはなかなか珍しいのでは、と思う。鏡越しというのも特殊である。繰り返しになるが、若い頃は本当に若手で、たまに行ってもギクシャクした会話にしかならず頭はスッキリしても気分はいつもドンヨリして帰った。
それなりに社会経験を積んで大半の散髪屋さんが自分よりも歳下になった今ではさすがにそういうこともなくなったが、散髪屋さんと他愛のない会話を交わしながらも、ふと不思議な関係だなぁ、と思うことはある。本当にどうして私はいつ行っても、会話の糸口をどう開こうかと真剣に悩んでいるのだろう?こちらから振った話題が盛り上がらなかった後の沈黙に耐えきれずに慌てて別の話をしてるんだろう?私はお客さんなはずなのに、どうしていつもこんな風に気を遣っているんだろう?不思議である。
でも、鏡越しの散髪屋さんがそんな自分とまさに同じ表情しているのを見た瞬間、なんだかほんわかした気分になる。奇妙だし、少し気疲れもするけど、たまにはこんな関係も悪くないと思う。そして、こんな風に毎日、たくさんの当惑を相手にしている散髪屋さんに幸あれと応援したくなる。ほんと、不思議な関係である。