第 3565 号2017.05.21
「 祖母の一声 」
長坂 隆雄(船橋市)
忙しい私の農家では、授業参観に両親が出席する事は殆どありませんでした。
時々、両親に代わって祖母が出席する事がありました。
併し、着飾った若い母親たちに交じって参列する、老いたモンペ姿の祖母を見て、恥ずかしい複雑な思いがしたものでした。
授業参観日の当日、先生から指名されて私は国語の本を読む事になりました。
背後に並んでいる多くの参観者を意識して、私は緊張のあまり、声が乾き、どもってしまいました。
どもりながら、同じ言葉をくりかえす私に、同級生達がどっと笑い、真似をする生徒もありました。
参列の父兄の中からも笑いがもれました。
その時でした。
『静かにせんかいな。騒いだらあかんがな。
先生さんも、なんで注意せえへんのや?』
と、大きな声が響きわたりました。
私にはすぐに祖母の声だとわかりました。一瞬にして、笑いが消え教室は静まりかえり、なんとか私は読み終える事ができました。
その時の祖母の一声程、力強く、頼もしく思った事はありませんでした。
併し、祖母はその事を両親に知らせる事はありませんでした。
私はますます祖母が好きになりました。